2015年 理工学部 シラバス - 海洋建築工学科
設置情報
科目名 |
沿岸域工学
沿岸域利用の基礎知識
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設置学科 | 海洋建築工学科 | 学年 | 3年 |
担当者 | 小林(昭)・野志 | 履修期 | 前期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 金曜4 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | D54C |
クラス |
概要
学修到達目標 | 沿岸域の環境管理の目的は,人間による空間と資源の利用による自然環境への影響を抑制しつつ豊かで安全な生活環境を継続的に保つことと考えることができる.そのためには,自然環境をよく知ることが大切であり,人為が環境に及ぼす影響の予測方法や影響緩和策の技術の現状と課題も熟知する必要がある.そこで,この授業では沿岸域の環境問題の解決に必要な工学的手法の基礎事項の理解を目標にし,①沿岸域の開発利用と防護,②その行為により生じる環境変化を主要テーマにして,人為による環境影響の緩和・保全・修復に関する考え方と対策技術を学習する. |
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授業形態及び 授業方法 |
授業形態:対面式授業 授業方法:各回の授業テーマから重要事項を3項目抽出して解説する.授業の進めかたは,1)目的と概要の解説(10分),2)3項目を各20分程度解説(60分),3)質疑応答・議論(20分) |
履修条件 | 海洋学Ⅰ・Ⅱ,水波工学Ⅰ,海洋環境工学で学習したことを復習しておくこと |
授業計画
第1回 | ガイダンス・沿岸域の利用と環境の変化/目的:授業の全体構成および到達目標の理解. 内容:はじめに,学習目標,授業形態及び授業方法,授業計画,参考図書,学習モデル,達成目標を解説する。次に,沿岸域の利用と環境の変化に関する事例を示し,海洋建築工学における沿岸域工学(沿岸環境工学)の重要性を解説する。 |
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第2回 | 沿岸域の地形と生態系/目的:沿岸域の特徴的な地形と生息生物の理解 内容:海岸の自然地形は浜,崖のような形状の分類と砂,礫,サンゴなどの構成材料による分類がある.これらの地形や構成材料はその場に生息あるいは生活史の一時期を過ごす生物や植物の種と大きく関係している.たとえば貝類は,稚貝の時期を汀線付近で過ごし成長と共に沖へ移動するが,それぞれの時期で海底地形や砂の粒径あるいは波や流れの環境に対して好みがある.したがって,私たちが勝手な開発利用を行うと生物や植物は生息が困難になる.第2回目は沿岸域管理のための基礎知識として海岸の特徴的な地形と生物を学習する. |
第3回 | 沿岸域の気象と海象/目的:沿岸域の気象と海象の理解 内容:沿岸域には海陸風のように海と陸の物理的条件に起因する気象があり,海流の水温に起因する地域特有の気候もある.また,砕波や海風で巻き上がり吹き寄せる海塩や砂塵は,私たちの生活の方法や構造物の劣化に影響を及ぼす.さらに,海面の潮汐や荒天時の変化は,施設の計画に大きく関係する.そこで,第3回は,海陸風や海流性の気候などの気象と海流,潮流,潮汐,潮位,波浪などの海象の現象とその起因を学習する. |
第4回 | 沿岸域の波と流れ/目的:沿岸域の波と流れの理解 内容:波浪は地形や海域の構造物の影響を受けて屈折,回折,反射をしてその大きさや進む方向を変える.また,浅い海域に至ると砕波に代表されるような大きな変形を生じる.これらの現象は平常時と荒天時では大きく異なり,その理解は沿岸域の施設を快適かつ安全に計画設計するために必要不可欠である.さらに波によって生じる流れは,砂移動の原動力となるので,構造物の建設などによって従来と異なった波の変化を生じさせると海岸の地形変化という環境影響が生じる.このように波とそれによる流れは沿岸域の環境保全と利用や防護に大きく影響を及ぼす.そこで第4回は沿岸域での波と流れの振舞いやその推定方法を学習する. |
第5回 | 沿岸域の環境調査/目的:環境調査の目的と方法の理解 内容:自然環境を知る最も有効な方法は現地での環境調査である.環境調査には,場所,対象,目的に応じて簡易あるいは詳細な方法があり,それぞれにほぼ定まった方法がある.計測された結果は現象の理解を促すように分析され,その海域の自然環境の評価に利用される.また,私たちが沿岸域を利用するときに環境に与えるインパクトを推測するためにも利用される.特に海洋工事は短期であってもインパクトを及ぼすのでその程度の理解には計測による監視が必要である.そこで第5回は沿岸域管理に重要な環境調査項目と方法並びに分析方法を学習する. |
第6回 | 漂砂と海岸地形/目的:漂砂機構と砂浜の地形の理解 内容:波と流れによって海岸の砂礫は頻繁に移動しており,その結果として砂浜は特徴的な地形を形成している.これらの砂礫は河川からの流入土砂や崖侵食土砂であるが,砂浜への流出入の収支の差で堆積や侵食が生じる.例えば,河川からの土砂が減少すれば砂浜の幅は減少するし,構造物によって砂の移動を止めると流下方向では土砂供給が減少するので侵食が生じる.これらは開発行為によることが多く沿岸域管理の上で極めて重要な環境変化をもたらしている.そこで第6回は侵食対策に必要な漂砂のメカニズムと形成される地形の特徴を学習する. |
第7回 | 構造物に作用する波の力/目的:構造物の形状に応じた波力の計算方法の理解 内容:沿岸域の空間利用では,高潮・高波に対する安全確保や施設の機能維持のために防波堤や護岸が建設される.また,侵食対策などの環境保全を目的にした構造物も建設される.これらの構造物の設計外力として最も重要と考えられるものが波力である.波力の計算には,対象とする構造物の形状に応じて一般的に提示された計算式が用いられることが多い.代表的な形状は,防波堤のような壁面,鋼管構造物のようなパイプ,海中展望塔のような円筒形,桟橋や海釣り公園に利用される浮体構造物のような箱型浮体である.そこで,第7回は,利用形態に応じた構造物の設計に対する基礎知識として,代表的な形状に作用する波力の算定方法を学習する. |
第8回 | 沿岸域の利用と防護と環境問題/目的:沿岸域の利用における災害と防護と環境問題の相関関係の理解 内容:沿岸域の開発では利用と防護と環境保全のバランスを保つことが重要になる.沿岸域の水際利用は,海岸近傍の宅地開発,物流や水産のための港湾整備,ホテルなどの観光施設があり,沖合にかけては将来構想として風,波,流れなどによる再生エネルギー利用施設や海底鉱物資源の開発施設もある.これらは周辺環境との接し方に相違があり,想定される災害の種類や防護方法も異なる一方で,それぞれに環境問題を内存している.そこで第8回では沿岸域の利用形態と防災と環境問題の相関関係を学習する. |
第9回 | 沿岸域の空間利用(1)設計技術/目的:沿岸域に建設される構造物の機能,耐力,耐久性能に配慮した設計方法の理解 内容:沿岸域に建設される構造物は,目的に応じた機能性能と,海風や波浪などの厳しい自然に対する高い耐力と耐久性が要求される.例えば防波堤の天端の高さは越波量や静穏度に関する機能に,幅は波浪に対する耐力に,使用材料は耐久性に関係する.そこで第9回では沿岸域に建設される構造物の中から,防護施設として防波堤,観光施設として海中展望塔,海面空間利用施設として箱型浮体を取り上げ,それぞれの機能,耐力,耐久性能に配慮した設計方法を学習する. |
第10回 | 沿岸域の空間利用(2)建設技術/目的:構造物の施工方法と発生し易い環境影響および回避方法の理解. 内容:海洋工事の方法は波浪等の自然条件に大きく依存する.例えば工期の短縮し高精度に構造物を建設するためには,陸上でほぼ完成させた構造物を設置海域まで海上運搬して設置する方法がとられ,運搬や設置方法には構造物の浮力を利用することなど,陸上とは異なった工夫が施される.一方で,工事中に漏れ出した物質による海域の汚染なども生じ易いので,工事方法の選定には環境へ配慮が必要である.さらに環境管理のためには,管理目標値の設定と環境監視の実施が重要であり,環境影響の発生を可能な限り抑制する必要がある.そこで,第10回は,前回と同様に防波堤,海中展望塔,箱型浮体を取り上げて,これらの建設方法と生じやすい環境問題および回避方法を学習する. |
第11回 | 沿岸域の空間利用(3)環境の保全と修復技術/目的:沿岸域の大きな環境問題である海岸侵食の要因と対策方法の理解. 内容:我が国で生じているほとんどの海岸侵食は人為によって発生しているといっても過言ではない.その理由は7つに分類されるといわれている.それらの理由となる人為には必然性があり私たちはその恩恵を受けているが,その一方で自然を変化させ,生物の生息環境や私たちの祖先から受け継いだ景観を損なっている.放置すればさらに悪化することがある場合には,保全対策を講じるべきであり,この判断には現象理解のための現地観測と数値予測が重要になる.そこで第11回は,海岸侵食の影響,要因および対策方法を学習する. |
第12回 | 沿岸域の生物資源利用/目的:生物資源の持続的利用を可能にする技術の理解. 内容:我が国の漁獲量の減少は需給バランスから輸入増大を招いている.漁獲量減少の理由には無計画な漁獲方法と共に漁場環境の変化が挙げられている.漁獲量向上のためには,我が国の漁場環境と生物が豊富な海域との対比による現状把握が必要であり,さらに持続利用を可能にするための環境改善を行わなければならない.また,積極的な漁獲量増加策である増養殖技術と漁場造成技術の向上も必要である.一方で,沿岸域利用の一つである遊漁やダイビングなどの振興による水産業とのコンフリクトも生じており,両者の協調による積極的な海域利用の必要性が生じている.そこで第12回は沿岸域の水産資源利用に着目して漁場環境と環境改善・増養殖・漁場造成技術,並びに水産と海洋性リクレーションとの協調を学習する. |
第13回 | 沿岸域のエネルギー資源利用/目的:沿岸域のエネルギー資源開発の現状と利用構想の理解 内容:海底石油やガスなどの海底鉱物は従来から利用されてきた有力なエネルギー資源である.これに加えて,現在では波力,潮流,潮位差が持続的に再生利用の可能なエネルギー資源として注目されている.これらの資源利用は海外では既に実用化されているが,わが国では未だに開発途上である.特に再生利用エネルギーは地球温暖化の抑制策として沿岸域のスマートシティ構築において重要な意味を持っている.一方,これらの開発は環境の変化を伴うことがあり,事故による環境影響も生じ得る.第13回はエネルギー資源の開発利用とその環境影響について学習する. |
第14回 | 沿岸域の環境問題と予測シミュレーション/目的:数値解析による現象再現や将来予測の方法と技術の現状の理解 内容:沿岸域における開発行為と環境影響およびその対策を学習してきた.沿岸域の環境保全を考えるためには,行為の影響を予め推測して最小に抑えることが重要である.また,既に生じている環境問題の要因を特定することも重要である.これらのことを効果的に行うことができる技術が数値シミュレーションである.例えば,複数の開発計画案の中から影響が最も少ない案を選ぶことや,影響を最小に抑える対策案の策定に数値シミュレーションを用いることができる.そこで第14回は数値シミュレーションの技術の事例と技術の現状を学習する. |
第15回 | 沿岸域管理における工学的課題と展望/目的:沿岸域管理における工学的手法の課題と将来展望の理解 内容:従来の沿岸域の土地利用は埋立てによる海側への進出が主であった.これは海岸や生物生息域の環境を改変する結果を生じさせ,その対策は防護のための構造物建設に頼ってきた.しかしその構造物もまた環境問題の要因となるものである.私たちに別の選択はないのであろうか.例えば施設を海辺から少し内陸へ移動すると,侵食域は若干進展するがあるところで定常に達し侵食はとまるはずである.このようなことの可能性を示すのが工学的技術である.第15回は開発行為による環境影響の緩和・保全・保護のための技術の現状と課題および将来展望を学習する. |
その他
教科書 |
岩田好一朗, 青木伸一, 関口秀夫, 水谷法美, 他 『海岸環境工学』 朝倉出版 2008年 第1版
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参考書 |
寺島紘士, 來生新, 小池勲夫 『海洋環境問題入門』 丸善 2007年
日本海洋学会沿岸海洋研究会 編 『詳論沿岸海洋学』 恒星社厚生閣 2014年 第1版
細田龍介・山田智貴 『環境と海洋』 大阪経済法科大学出版部 2012年 第1版
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成績評価の方法 及び基準 |
毎回の学習内容確認チェック15点,期末テスト85点 |
質問への対応 | 随時受け付けます。 |
研究室又は 連絡先 |
沿岸域工学研究室:13号館3階1335室 |
オフィスアワー |
火曜 船橋 15:00 ~ 18:00
水曜 船橋 15:00 ~ 18:00
木曜 船橋 15:00 ~ 18:00
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学生への メッセージ |