2015年 理工学部 シラバス - 教養教育・外国語・保健体育・共通基礎
設置情報
科目名 |
技術者倫理
技術とリスクの倫理学
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設置学科 | 一般教育 | 学年 | 2年 |
担当者 | 佐々木 慎吾 | 履修期 | 後期 前期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 月曜2 月曜4 |
校舎 | 駿河台 | 時間割CD | T12U T14A |
クラス |
概要
学修到達目標 | 今なお記憶に鮮明な、あの「3.11」以来、現代社会を語るうえで、「リスク」という観点が 必須のものとなっています。「昨日あったごとく、明日もまたあるだろう」という「日常性」への信頼がもろくも崩れ去るのを、われわれは目の当たりにしました。「リスクとともに生きる」ということの意味を、一人一人が自らの問題として考えることが求められています。 こうした「リスク」をめぐる問いが、どのような地点で「倫理」への問い、すなわち「他者」への問いと交差することになるのかを考えてみたいと思います。 生殖技術による生命操作の可能性、化学物質による環境汚染といった人類の未来に関わる問題から、ITの発展と生活の変化(携帯電話、「ゲーム脳」)、食品の表示偽装など身近な問題にいたるまで、科学技術の功罪がさまざまに論じられる中で、「もっと倫理を、道徳を!」との声が異口同音に上がっています。もちろん、科学技術に関わる多くの人々が高い倫理観を身につけることが望ましいのは言うまでもありません。しかし、すべてを個人の「自覚」や「心構え」の問題として片づけてしまうことには、何か落とし穴があるのではないでしょうか。技術が「リスク」をはらむものであるのと同様に、「道徳」もまたリスクを伴う企てなのです。 本講義では、技術やリスクをめぐる哲学・社会学の基礎的知識を紹介するかたわら、実際の事例を題材に採って、「倫理」という大切な、しかし同時に何だか得体の知れない相手とのつきあい方を考えます。 |
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授業形態及び 授業方法 |
講義と板書が中心。プリントを適宜配布します(欠席者への再配布はおこなわない)。授業 中に随時発言を求めることもあります。 |
履修条件 | 予備知識は特に必要ありません。意欲ある参加と、社会・人間に対する旺盛な好奇心を期待します。 |
授業計画
第1回 | 「技術者倫理」への招待 倫理学とはどのような学問か? 「リスク」を主題とすることの意義 ※講義の進め方、注意事項については、この回に説明を行う。 |
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第2回 | 「技術」の哲学(1) アリストテレス、カッシーラーの技術論、「呪術」と「技術」の共通点と差異について。「技術」をどのような営みとして特徴づけるか? |
第3回 | 「技術」の哲学(2) ハイデガー、三木清の技術論、ウェーバーの合理性論について論じる。現代哲学における技術的理性批判の系譜(フランクフルト学派)について概観するとともに、それらの今日的意味を考察する。 |
第4回 | 未来制御術としての「技術」~時間と合理性 目的-手段連関と「時間」との関わりについて考察する。「技術知」と要素還元主義は、どのような世界像を可能にするか? |
第5回 | 「リスク」の社会理論(1) チェルノブイリ事故とU.ベックの「リスク社会」 「3.11」のリスク論的インパクト。「天災」と「人災」の差異はどこから生まれるのか? |
第6回 | 「リスク」の社会理論(2) リスクと時間、N.ルーマンのリスク論~「社会システム理論」の哲学史的位置づけ。社会システム理論についての概観を与えるとともに、社会学的リスク概念の倫理学的含意について考察する。 |
第7回 | 「リスク」の社会理論(3) ルーマンの「リスクの社会学」(続き) 現代社会の時間構造の分析から、なぜ「リスク」が現代社会特有の問題となるのかを考察する。 |
第8回 | 事例検討(1) 責任概念の再検討~医療過誤訴訟、製造物責任法を手がかりに考える 「責任のコミュニケーション 」の拡大とリスク |
第9回 | 事例検討(2) 過失責任と刑事罰~重大事故における個人免責は非道徳的か?「厳罰化」 と技術者の責任 ~ヒューマンエラーは裁けるか? 「専門家(プロフェッショナル)」の社会的責任の望ましいあり方を考える。 |
第10回 | 事例検討(3) 日本型「共同体主義的」倫理と内部告発者~「和の倫理」と「正義」。和 辻哲郎の倫理学 道徳化された「自然」概念の再検討 事例検討から見えてくる、現代の「リスク社会」の諸相 |
第11回 | リスクと「他者」の問題~近年の刑事政策の動向と、その倫理学的意義。厳罰化・刑事罰の早期化をめぐって。 監視社会の諸相、ペナル・ポピュリズムのリスク論的背景を、ヘーゲル法哲学にも言及しつつ論じる。 |
第12回 | 技術のリスク・リスクと不安~「安心」と「安全」の狭間ででどのように振る舞うべきか? 「不安」を増幅する、リスク社会のコミュニケーションの特質について論じる。 |
第13回 | 「道徳」はリスクを回避できるか?~リスクの道徳・道徳のリスク。「道徳のインフレーション」と「モラル・パニック」のリスクを評価する。技術をめぐる、望ましい対話・コミュニケーションをどのように構築しうるのかについて論じる。 |
第14回 | まとめ 「日常性」と「リスク」の緊張関係から見えてくる「倫理」のあり方とは? |
第15回 | 到達度の確認 平常試験ならびに解説 |
その他
教科書 |
勢力尚雅(編著) 『 『科学技術の倫理学Ⅱ』 』 梓出版社 2015年 第初版
小テスト・テストは教科書の内容に沿った内容を出題します。また、毎回、教科書の指定さ
れた箇所の予習を求めます。授業中にも、教科書の内容について意見を述べてもらうことがありますから、必ず準備すること。。
※昨年度までに使用していた教科書(『科学技術の倫理学』)とは異なります。必ず、「Ⅱ」であることを確認してから購入して下さい。
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参考書 |
教科書以外の参考書については、授業中にリストを配布します。
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成績評価の方法 及び基準 |
理解度確認期間中に行う試験を60%、不定期(おおむね2~3回に一度)に行う小テストを20%、課題図書に関するレポート(最終授業日に提出)を20%の割合で評価する。なお、小テストの提出回数が全回数の半数に満たない者は、出席不足と見なして本試験の受験を認めない(たとえ受験しても評価の対象としない)。授業内容(基本的な用語や概念、人名)の理解度の他、自分の考えを論理的に表現できているかという点も重視する。 なお、私語や携帯電話の使用など授業の進行を妨げる行為については、成績評価・単位認定の上で厳しく取り扱うから、特に注意して下さい。詳細は初回授業にて伝えます。 |
質問への対応 | 基本的に毎回授業後に質問時間を設けます。小テストに質問・意見を書いても構いません。 もちろん、授業中に発言することは大歓迎です(積極的な発言は、評価の対象とします)。 |
研究室又は 連絡先 |
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オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
「やっぱり倫理が大切だ!」と考えている人、「倫理学なんてお説教でしょ」と考えている 人のどちらも大歓迎。高校の「倫理」の授業が眠くて仕方なかった人は特に歓迎します。「倫理学ってこういうものだったのか!」と思わせるのが目標です。「当たり前のこと」を、あえて疑ってみるということの大切さを、みなさんと共に考える授業にしたいと思います |