2015年 大学院理工学研究科 シラバス - 海洋建築工学専攻
設置情報
科目名 | 沿岸環境工学特論 | ||
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設置学科 | 海洋建築工学専攻 | 学年 | 1年 |
担当者 | 小林 昭男 | 履修期 | 前期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 月曜5 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | D15A |
クラス |
概要
学修到達目標 | 沿岸域の環境管理者として社会環境と自然環境の調和を図りつつ施設の計画・設計するための技術の修得,および沿岸域の利用者との合意形成に有効な工学的な問題解決手法の修得. |
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授業形態及び 授業方法 |
授業形態:対面式授業と議論 授業方法:各回の授業テーマから重要事項を3項目抽出して解説・議論する.授業方法は,1)目的と概要の解説(5分),2)3項目を各20分程度解説(60分),3)質疑応答・議論(25分). |
準備学習(予習・ 復習等)の内容・ 受講のための 予備知識 |
Moodleni掲載する資料により授業内容を確認し,キーワードの整理や研究テーマとの関連性の考察を行い,強い関心をもって授業に臨むこと |
授業計画
第1回 | テーマ:沿岸域管理と沿岸域環境工学 内容:沿岸域を管理するためには,可能な限り自然と調和し,かつ管理対象地域の利用者との合意に基づく施設の計画・設計が必要である.これらの実施に必要な知識が沿岸域環境工学で修得する工学的問題解決手法である.これは論理的な対策立案技術,対策施設の設計条件や機能の確認のための数値シミュレーション技術,その結果の妥当性を見極める技術から成り立つ.これら技術の概要とともに,授業の達成目標,全体構成,授業方法を解説する. |
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第2回 | テーマ:高潮・高波と対策施設の機能 内容:台風による高潮・高波は頻繁に生じる自然現象であり,現在でもこれらの猛威から沿岸域を防護するための対策が講じられているが,気候変動や施設の老朽化のために施設の増強や更新が必要となっている.施設の計画・設計には現象と対策技術の理解が必要である.そこで,発生メカニズム,沿岸域で現象,災害事例,防護のための防波堤,護岸,防潮堤の必要機能,設計条件,主要な設計項目および結果として懸念される環境影響を解説・議論する。 |
第3回 | テーマ:高潮・高波の数値予測 内容:台風による高潮・高波による海面の高さは,潮汐波と高潮と高波の合計である.これが防護するための高さの基準であり,精度良い数値シミュレーションが必要である.シミュレーションは,台風,高潮・高波,氾濫に関するシミュレーションに大別され,その結果に基づいて高潮・高波の規模と再現期間などの設計条件が設定される.適切な設計条件の設定に必要な知識として,基礎理論と計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第4回 | テーマ:波浪変形の数値予測 内容:波浪は地形などの影響を受けて変形(屈折,回折,反射,浅水変形,砕波)する.この変形を精度よく推定することは,高波に対する防護のみならず海浜・海底地形の長期的な変化予測にも関係する重要なシミュレーション技術である.その基礎理論は各変形現象の解析への適用性によって分類されており,その知識は施設の設計・計画において不可欠である.代表的な推定方法の基礎理論と計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第5回 | テーマ:津波と対策施設の機能 内容:わが国では数十年に一度の割合で地震起源の津波災害が生じてきたが,その度に甚大な災害が生じており,対策技術はソフト・ハードともに沿岸域管理の大きな課題である. 2011年3月に発生の東日本大震災以後,津波の再現期間に応じた対策施設の立案が進められており,防護基準の津波高も地域ごとに算出されている.対策には津波防波堤や海岸堤防があるが堤高だけの防護には限界がある.ソフトを含めた地域に応じた対策立案に必要な知識として発生・伝搬メカニズム,災害事例,防護施設の必要機能を解説する. |
第6回 | テーマ:津波の数値予測 内容:津波の現象に関する推定技術としては,発生・伝搬・来襲する波高や周期の推定が可能となっている.さらに陸域への遡上高さ,浸水範囲,建築物等への衝撃力,物体の漂流も推定可能である.これらは津波シミュレーション,津浪ハザードマップと呼ばれており,対策施設の立案に用いられている.ハード・ソフトの双方に関わる効果的な対策立案に必要な知識として,基礎理論と計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第7回 | テーマ:海浜地形変化と対策施設の機能 海浜地形変化は世界各国で社会問題となっている現象であり,日本ではほとんどの砂浜海岸で異常な侵食と堆積が生じている.地形のみならず生態系にも大きな影響を及ぼす砂浜の変形は,従来からその砂浜に供給されていた砂の不足が原因であり,砂の不足の多くは海岸に建設された構造物に起因する.効果的な対策施設の計画・設計に必要な知識として,発生のメカニズム,災害事例,対策施設の必要機能,設計条件,主要な設計項目を解説・議論する. |
第8回 | テーマ:海浜地形変化の数値予測 海浜地形変化の予測は,地形変化を抑制するための対策立案のみならず防災等の海岸域の構造物の地形変化影響を推定するためにも用いられる.予測方法は,予測対象が例えば汀線の変化なのか,構成砂の粒径変化まで予測するのかなどに応じて,簡易予測から精緻予測まで複数の方法が提案されている.効果的な海浜環境の保全・補修に必要な知識として,これらの基礎理論と計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第9回 | テーマ:飛砂・飛塩に関する数値予測 内容:飛砂・飛塩は構造物に対する塩害や汚損の要因であり,洗濯物の乾燥方法や窓の開放などの生活に対する弊害の要因でもある.飛砂は人工林などによる飛来防止策が講じられているが,飛塩として移動する海塩粒子は軽く飛散範囲が広いために,広範囲の建築物の内外の鋼材を腐食させる.効果的な飛砂・飛塩の対策立案に必要な知識として,発生のメカニズム,災害事例,対策施設の必要機能,予測シミュレーション技術,基礎理論,計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第10回 | テーマ:浮体施設の機能 内容:浮体構造による施設は沿岸域空間の有効な利用方法の一つである.我が国では防災基地,ホテル,海釣り公園としての事例があり,海外では展示施設,公園,競技場の観覧席などの事例がある.浮体施設で最も重要なことは静穏時の快適性と荒天時の安全性であり,本体のみならず設置海域に応じた位置保持のための係留施設が必要である.快適かつ安全な浮体施設の計画・設計に必要な知識として,必要機能,設計条件,主要な設計項目を解説・議論する. |
第11回 | テーマ:浮体施設に関する数値計算 浮体構造の形状を設定するためには,静水中と波浪中の安定を検討する必要がある.前者は傾斜可能な最大角度の算定による沈没の可能性の検討であり,後者は常時あるいは異常時の波浪中動揺であり快適性と安全性の双方に関わる検討である.検討に必要な静水中の安定性,波浪中の動揺量の推定に必要な波力,流体力,動揺量解析の基礎理論,代表的な予測計算方法,計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第12回 | テーマ:水質変化の数値予測 内容:港湾や漁港の内側は閉鎖性水域になり,水塊交換能力が低下する場合には水質低下が生じる.一方で,閉鎖性海域の開発では,自然の浄化能力を上回る富栄養化による水質低下が生じる.回避には水質交換能力の担保が必要であり,港口形状や湾口での対策構造物の設置をパラメターとした水質予測シミュレーションによる検討が必要である.検討に必要な水質予測の基礎理論,予測計算方法,計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第13回 | テーマ:漁場環境の数値予測 内容:漁獲量増加のための漁場造成では様々なタイプの魚礁が海底に設置され,漁場環境の改善のための施設も海底や海面に設置されてきた.適正な設置海域の設定や総合的な効果の確認を行うためには,従来の経験と生物的な知識に裏付けられた適切な数値計算技術が必要である.効果的な漁場環境創生のために必要な知識として,漁場環境予測の基礎理論,代表的な予測計算方法,計算結果の分析に必要な考えを計算事例とともに解説・議論する. |
第14回 | テーマ:合意形成への数値予測の応用例 内容:数値シミュレーションは過去や未来の状況を可視化する効果的な方法であり,海岸の管理者と利用者は共通の認識を持つことができる.例えば,海浜変形の抑止策を選択する際に,選択肢ごとの将来予測を見ながら最適解を議論できる.高波による越波災害防止,景観,コスト低減を論点とした対策の選択や土地利用による海浜変形の要因と将来予測が論点となった対策の選択など,合意形成会議における数値計算の利用事例を解説・議論する. |
第15回 | テーマ:沿岸域環境工学における数値予測技術の展望 内容:沿岸域の施設設計において,必要機能と設計条件の設定や将来の効果予測あるいは影響予測に関しては数値シミュレーションが不可欠な技術となっている.一方でコンピュータ技術の向上によって計算速度と容量の増加し,広域の検討が可能になってきた.例えば従来は施設近傍にとどまった影響予測が今後は広範になる.しかし,その効果的な利用に対しては数値計算の高度化に向けた努力が必要であり,今後の解決すべき課題と展望を解説・議論する. |
その他
教科書 |
毎回のテーマに沿った数編の学術論文をMoodleに掲示するので,あらかじめ予習に用いること
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参考資料コメント 及び 資料(技術論文等) |
土木学会編 『海岸施設設計便覧』 丸善 2000年 第1版
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成績評価の方法 及び基準 |
授業中の議論の内容と期末のレポート課題に対する解答内容 |
質問への対応 | 随時メールで受け付け,履修者全員に返答を配信する |
研究室又は 連絡先 |
沿岸域工学研究室 13号館3階 e-mail: Kobayashi.akio@*** |
オフィスアワー |
火曜 船橋 15:00 ~ 18:00
水曜 船橋 15:00 ~ 18:00
木曜 船橋 15:00 ~ 18:00
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学生への メッセージ |
日本の海岸線は3万4千kmもあり,私たちの大切な生活の空間になっています.この空間の合理的な開発と保全に必要な技術と課題の解決方法を学びましょう. |