2015年 大学院理工学研究科 シラバス - 医療・福祉工学専攻
設置情報
科目名 | 社会福祉学特論 | ||
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設置学科 | 医療・福祉工学専攻 | 学年 | 1年 |
担当者 | 八藤後 猛 | 履修期 | 前期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 金曜5 |
校舎 | 駿河台 | 時間割CD | P55A |
クラス |
概要
学修到達目標 | 人間生活をその対象としてテーマを構成する広義の医療系、理・工学系専門職もしくは研究 者として身につけてもらいたい、「社会」と「個人」とのコミュニケーションともいえる社会福祉を概観する。それによって、受講者とその専門領域を真に人間の幸福のための援助技術として捉え、発展させることを目標としている。 |
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授業形態及び 授業方法 |
講義形式による。 なお、担当教員と学生とのインタラクティブなコミュニケーションを目指している。 |
準備学習(予習・ 復習等)の内容・ 受講のための 予備知識 |
予備知識はとくに求めない。 必要に応じて講義内で指示する。 講義内容に関連する課題を与え、それに関するレポートや討論などによる評価が行われる。 |
授業計画
第1回 | 社会福祉とは/原点ともいえる救貧の考え方を通して、国のちがいや歴史的変遷をたどりながら、援助する側(社会)と援助される側の関係を読み解き、リバタリアンパターナリズム(緩やかな介入主義)をはじめとした思想による近代国家における社会福祉が確立するまでを概観する。 |
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第2回 | 福祉国家の成り立ち/そもそも社会福祉とは、だれが主体になってだれに対して行うのか。これらは歴史的にみると、近代の数年間だけでも大きく揺れ動いている。貧困とは、福祉的援助が必要な人とはどのような人々を指すのか。貧困はなぜ発生し、その責任はどこにあるのか。障害者はなぜがんばらなくてはならないのか。障害者の呼称として実際には英語圏では使われていない「チャレンジド」が、我が国では広まっているのはなぜか。こうした問題についてひもとく過程において、福祉的援助について立場によって多様な価値観、そして思惑があることがわかる。 |
第3回 | ノーマライゼーション/1950年代北欧から始まったノーマライゼーション思想は、またたく間に中欧、北米へと広がっていった。バンクミケルセンのこうした平等思想は、なぜこれまでに世界に広がったのか。そして、それらは受け止める国々の平等、権利思想と絡まりながら、各国や地域で独自の展開がみられる。その過程と背景を考察する。 |
第4回 | 当事者運動と福祉まちづくり/世界の福祉、とりわけ障害者福祉は当事者運動によって形成されていった。そこには、従来の価値観ではとうてい紡ぎ出すことができない世界観があり、後の障害学へとつながる。ときには障害者どうしの心理的相互扶助の絶対視、専門家の排除といったものへ発展した時期があった。こうした運動を当事者の目で検証し、近代社会福祉に欠落していた思想を考察する。 |
第5回 | 障害とは 障害学とは/そもそも援助の対象となる「障害」とはなにか。この概念によって、その対象は大きく変わる。「障害」は福祉支援制度の対象となり、それとともに制度的意図によって「障害」の範囲が変わってきた。そして近代になって障害はそれまでの「自身の不幸を背負った対象」から「環境によって問題が顕在化した対象」へと変化する。それは工学的解決が注目されるのと時を同じくしている。 |
第6回 | 障害とリハビリテーション、そしてリハビリテーション工学/リハビリテーションも、不幸の原因となった疾病を治す対象から、環境へ適応させる対象、そして環境がそれらの人々に合わせる制度改革、まちづくりや工学的解決が期待されるようになる。その一方で、聴覚障害者への福祉は機器として輝かしい期待を持って出現した人工内耳が、一部の当事者から拒絶されている現実を考察する。やがて1980年WHOの国際障害分類が新たな障害観を提起したが、それらは今日どのように変容していったか。 |
第7回 | ソーシャルワーク/社会的援助者としての役割が期待されているソーシャルワーカーという職種がある。この援助とはどのようなものか。その援助は技術的背景をもって、時には援助者は被援助者にそれをもって君臨することがある。ポストモダン思想の流れに位置づく専門職幻想である。これを医療、看護そして工学分野をも含むあらゆる専門職への疑義を唱えるものと捉え、これからの援助論を概観する。 |
第8回 | ケアを科学する/高齢者、障害者への福祉サービスとしての「介護」に焦点をあてる。近代国家における、家族がケアする「あたりまえ」はどのように形成されたのか。これらは家長制度に始まる原始的家族から現代のような様々な家族形態への移行の過程、そしてジェンダー(社会的性差と役割)から読み解く。上野による「家族介護は幻想である」と言わしめた根拠はなにか。その一方で、介助者からの解放と自立の第一歩となるであろう電動車いすが、当事者から拒絶されていた現実を読み解く。 |
第9回 | 公共とは、公共哲学/これらには常に「平等とはなにか」といった問いかけと、一つひとつの事項に答えを出す必要性に迫られることは少なくない。公共のために一定のルールの下、個人の権利が制限される場面があるが、社会学、公共哲学などの学問分野では、これらについてどのように向き合っているのかを概観し、生命倫理、そして福祉機器の適正利用、まちづくりといった場面にこれらの思想を当てはめ、考察する。 |
第10回 | 視覚障害者と視覚障害者用誘導ブロック/視覚障害者への福祉施策の中でも、我が国が独自の展開を遂げたものに視覚障害者用誘導ブロックがある。他の福祉先進国にもないこの都市設備がどのように生まれ、どのように独自の発展を遂げたのか。さらには一時福祉先進国からは蔑まされていたブロックが、その敷設方法を変えながら各国にどのように浸透したのかを概観する。また、その色、形状、敷設方法は、技術的には説明がつかないまちづくり運動史との関連について読み解く。 |
第11回 | 色覚障害をとりまく光と影、カラーユニバーサルデザイン教育/今から100年近く前に世界に先駆けて完成した石原式検査表は、その並外れた感度の良さ故、世界中で使われることになった。しかし、それは色覚障害者にとって歴史的に抑圧の始まりであったともいえる。2000年代に入ってから急激に工学やデザイン分野ではカラーユニバーサルデザイン(CUD)とその教育が普及した。急きょデザイン教育の花形となったCUDは、抑圧された当事者を真に解放したのであろうか。教育現場では新たな問題が明らかになっている。その過程を概観し考察する。 |
第12回 | 精神障害者をとりまく社会、そして環境/その病態については、近代以前から認識され、時には宗教的な価値観とともに迫害されていた史実がある。我が国においても呉秀三による在宅患者の全国調査はよく知られている。近代以降もそれらの施策は一貫して「精神障害者」から保護される対象を「社会」として、本人を社会構成員から除外していたという歴史がある。このような状況は現在どのようになっているのであろうか。障害学でいう「社会変容」は、精神障害者に対して達成しているのか。住宅、都市といったレベルでの解決方法が模索されている。2010年度に国交省で行われた調査をもとに、工学的支援の方法についても考察する。 |
第13回 | 自閉症スペクトラム/ごく最近になってから明らかになってきた、新たな障害の概念である。これはわれわれの「障害観」を根本から覆すものになった。人間一人ひとりの行動について、これまで単なる「個別性」で片付けられていたものが科学的に明らかになってくるようになってから、他の人と異なった行動をとる人を社会が「障害者」として認識するようにもなった。これは当事者や家族にとって解放の機会だったのか、新たに抑圧の始まりだったのか。人々が個別にもつスペクラムが要求する社会環境は全く個別のものである。こうした多様性を社会が認めていくといった合意形成を目指すために、工学としての環境設定はどのようにあるべきかを考察する。 |
第14回 | 発達障害/マスコミでも多く取り上げられるようになったこうした障害もまた、近年その概念が形成されていたものである。人それぞれがもつ固有のスペクトラムに、ある社会的な不適応状態となる型があるとそれを「障害」と見なすようになった。「障害は単なる個性である」という言われ方をすることがある。これは、対人援助においてその原因を本人に求めないという近代社会福祉理論からでたものであり、その様態自体は肯定されている。その一方で、この一方的な個人肯定が社会環境を積極的に変えていくといった、近代以降のソーシャルワークを否定することにならないかなど多面的に考察する。 |
第15回 | 障害者の権利条約から差別解消法/障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置等について定める条約が2006年国連によって採択され、2014年我が国は批准した。時を同じくこれを国内法で具体化するための法律「差別解消法」へとつながっている。権利条約は、どのような背景で生まれたのか、差別とはどのようなものをいうのか、福祉施策、まちづくり、そして人々の処遇についてなにが変わっていくのかを概観する。 |
その他
教科書 |
とくに定めない。
講義において、必要に応じて資料等を配布する。
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参考資料コメント 及び 資料(技術論文等) |
講義内で紹介する。
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成績評価の方法 及び基準 |
講義時の積極的な討議への参加態度、ならびにレポート課題 |
質問への対応 | 講義後教室にて、もしくは研究室で |
研究室又は 連絡先 |
初回の講義において開示する。 |
オフィスアワー |
月曜 船橋 15:00 ~ 16:30
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学生への メッセージ |
担当教員は、理系(建築学)出身であり、研究テーマも一貫して工学的アプローチによるものを工学系学会において発表してきた。その過程において社会福祉学と、かかわることになる。工学が人間-環境系を扱うことから、人間への環境適応の考え方が、これからの工学技術者、研究者には重要であり社会が求めていると考えている。それらの根拠となる、社会が個人の人間に対してとる態度、すなわち社会福祉を読み解き、そこから福祉的な社会を目指すために必要な素養を身につけてもらいたい。 なお受講においては、社会福祉学や社会学などの特別な知識は必要ない。 |