2017年 理工学部 シラバス - 教養教育・外国語・保健体育・共通基礎
設置情報
科目名 |
倫理学
犯罪と刑罰から考える、「倫理学」への誘い
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設置学科 | 一般教育 | 学年 | 1年 |
担当者 | 佐々木 慎吾 | 履修期 | 前期 後期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 火曜4 水曜3 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | Q24W Q33S R24N |
クラス | |||
履修系統図 | 履修系統図の確認 |
概要
学修到達目標 | 唐突ですが、次のような問いを考えてみてください。 「子供を誘拐した犯人を、警察が逮捕した。しかし、犯人は頑として子供の隠し場所を白状しない。このまま放置すれば、被害者の生命に危険が及ぶ可能性がある。さてこの場合、警察が暴力的な手段に訴えてでも(つまり拷問によって)口を割らせることは正しいことか?」 これは、ドイツにおいて実際の裁判例となった事件(いわゆる「救助のための拷問」問題)ですが、皆さんはどう考えるでしょうか。直感的に、「当然、正しいに決まってるじゃん」と思う人、「やっぱ拷問拷問はまずいんじゃね」と思う人、さまざまではないでしょうか。 こうした言わば「ギリギリ」の決断を迫られる場面においては、例えば「正義」「人格の尊厳性」あるいは「自由」といった倫理学的諸概念が、現実との抜き差しならない緊張関係とともに際立ってきているのがわかります。さて、この事例では、一体どのように対応することが「正しい」ことなのでしょうか? 折しも、裁判員制度の導入によって、犯罪や刑罰というものを自分自身の問題として引き受けることが、私たち一人一人に求められています。「人を裁く」ということが、どこか遠い世界の話ではなく、のっぴきならない現実として突きつけられていると言っていいでしょう。 こうした観点から、近年とりわけ再評価が進むカントやヘーゲルの刑罰論、社会システム理論(ルーマン)の刑法学への応用であるヤコブスの「敵対刑法」論などについて議論するとともに、場合に応じて、リスク社会論や街頭監視、死刑存廃論をめぐる諸問題など、今日的な動向についても触れ、また、実際の事例を多く取り上げながら、現代社会における「刑罰の倫理学(Penal Ehics)」の可能性を考えます。 現代的な問題について考える際にも、歴史を振り返り、先人の言葉に耳を傾けることが重要です。本講義では、倫理学の基本的な概念についての思想史的な理解を与えるとともに、それらを現代的な課題として捉えるための視座を提供することを目指します。 ※なお、冒頭の裁判例がどのような結果になったかの答えは、授業内で発表します。 |
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授業形態及び 授業方法 |
講義と板書が中心ですが、必要に応じてプリントを配布します。 環境ライフサブメジャー・コース設置科目 |
履修条件 | 予備知識は特に必要ありません。 |
授業計画
第1回 | 刑罰をめぐる今日の状況 「厳罰化」「広範囲化」「早期化」という潮流とその背景。 倫理学の方法論について。「刑罰・犯罪」が、なぜ倫理学の課題となるのか。倫理学は法学的アプローチとどのような点で異なるのか。 |
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第2回 | 古代の刑罰観(ギリシャ、日本)とその影響―『オイディプス王』『古事記』を題材として、応報と復讐、「ケガレ」の思想について考える。 |
第3回 | 共同体と犯罪 アウトロー(法‐外なる者)としての「他者」 排除と包摂の論理について。「私権の行使」としての刑罰から、「国家の刑罰」へ。 |
第4回 | 啓蒙思想・社会契約説の刑罰論(グロティウス、ホッブズなど) 「国家による刑罰」の根拠について。「啓蒙」とは何か? 「人格の尊厳性」という新たな価値の基盤とその根拠について考える。 |
第5回 | カント(1) カント法論の現代的意義とは? 応報刑の哲学的根拠づけについて。 「定言命法」「人格と物の区別」など、カント道徳哲学を概観するとともに、その現代的な意義について解説する。 |
第6回 | カント(2) 第五回の続き |
第7回 | ヘーゲル(1) 市民社会と相互承認、法の「自己回復」としての刑罰 ヘーゲル哲学の思考法(弁証法)について概観するとともに、市民社会の哲学としての「法哲学」における犯罪論・刑罰論について解説する。 |
第8回 | ヘーゲル(2) 第七回の続き |
第9回 | 現代における刑罰観・犯罪観の転換―応報から教育へ 「自由と安心のトレード・オフ」は、倫理学的にどこまで正当化しうるのか。 ※実例トピックの検討(街頭監視・非拘禁的処遇の倫理学的問題など) |
第10回 | ヤコブスの「敵対刑法」論(1) 社会システム理論から刑罰を捉える 人格の相互承認か、「敵」との闘争か? |
第11回 | ヤコブスの「敵対刑法」論(2) 第十回の続き 現代に甦るヘーゲル法哲学? 応報刑論の現代的展開と、その倫理学的意義 |
第12回 | リスク社会における「他者」の変容 ルーマンのリスク論・規範論 抗事実的予期としての「法」。社会システム理論について概説するとともに、「予期」に基づく規範理論について解説する。 |
第13回 | 「信頼」の社会理論から倫理学へ 「他者を信頼すること」とそのリスク。12回の内容を踏まえ、システム理論における「信頼」の位置づけについて、和辻倫理学などにも言及して解説する。 |
第14回 | まとめ Penal Ethicsの射程と可能性―「人を裁くこと/罰すること」の倫理とは? |
第15回 | 理解度確認テストおよび解説 |
その他
教科書 |
教科書は特に指定しません。
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参考書 |
参考書は、必要に応じて紹介します。
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成績評価の方法 及び基準 |
理解度確認期間中に行うテスト(60%)、不定期に行う小テスト(20%)、課題図書についてのレポート(20%、テスト日に提出)の合計で評価します。 テストでは、人名や用語・概念といった授業内容の理解の他、自分の考えが論理的に表現できているかどうかという点も評価の対象とします。また、小テストの提出回数が全体の半数に満たない場合、出席不良と見なして、本試験の受験を認めません。 なお、私語や携帯電話の使用といった、授業の妨げとなる行為については、成績判定や単位認定上、特に厳しく取り扱うから、十分に注意して下さい。 |
質問への対応 | 授業中、授業後など、いつでも質問を受け付けます。「講義の邪魔にまるのでは……」などという心配は無用です。積極的に発言して下さい。 |
研究室又は 連絡先 |
担当者の授業用メールアドレスは、初回授業にて伝えます。 |
オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
「倫理学」というものに皆さんがいだくイメージはさまざまでしょう。ひょっとしたら、「退屈なお説教」「現実離れした空論」という先入観を持つ人もいるかもしれません。また、数百年前の人間が著した書物を読むことがいったい何の役に立つのか、疑わしく思う人もあるでしょう。そのような人はむしろ大歓迎です。哀切なのは、人間や社会に対する貪欲な好奇心と、「当たり前」のことをあえて疑ってみる態度です。皆さんの参加を大いに期待しています。 |