2017年 理工学部 シラバス - 教養教育・外国語・保健体育・共通基礎
設置情報
科目名 |
技術者倫理
技術と「リスク」の倫理学~科学技術が「できること」と「やっていいこと」~
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設置学科 | 一般教育 | 学年 | 1年 |
担当者 | 佐々木 慎吾 | 履修期 | 前期 後期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 火曜3 水曜3 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | R23P R33W S23M |
クラス | |||
履修系統図 | 履修系統図の確認 |
概要
学修到達目標 | 最近の科学技術の発展スピードは目覚ましく、一昔前はSFの世界の出来事だと思われていたさまざまな技術が現実のものとなりつつあります。それに伴って、クリアすべき倫理学的課題も増大しているわけですが、必ずしも議論が現実に追いついていないという面が否定できません。 例えば、「クローン人間製作」や「ゲノム編集技術による人間の質的改良」の問題を考えてみます。これらの技術は、もはや実用的に可能な段階に達しつつあり、その意味では「できること」の領域に入ってきています。他方で、そのようにして誕生した存在が、果たして「私たち」と同じ「人間」であり、固有の尊厳を有する「人格」たりうるのか、という疑問や不安が拭えないのも事実です(『機動戦士ガンダム』シリーズの「強化人間」や、『とある~』シリーズの「妹達」を思い浮かべればピンとくる人も多いでしょう)。 こうした状況において、望ましい「技術者倫理」の在り方を考える切り口となるのが「リスク」の概念です。技術が合理性によって未来とかかわろうとするとき、そこには必ず「リスク」が生じます。この出発点から、私たちが未来に対して負っている責任とは何か、を考え、そして、技術が「できること」と「やっていいこと(あるいは、してはならないこと)」の線引きについて、いかにして広範な社会的合意を形成しうるか、について考えることが、この授業の目標です。 本講義では、技術やリスクをめぐる哲学・社会学の基礎的知識を紹介するかたわら、実際の事例を題材に採りながら、将来さまざまな形で「技術」に関わるであろう皆さんが身につけておくべき基本的な視座を探っていきたいと思います。 |
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授業形態及び 授業方法 |
講義と板書が中心。プリントを適宜配布します。授業 中に随時発言を求めることもあります。 |
履修条件 | 予備知識は特に必要ありません。意欲ある参加と、社会・人間に対する旺盛な好奇心を期待します。社会コミュニケーションサブメジャー・コース設置科目 |
授業計画
第1回 | 「技術者倫理」への招待 倫理学とはどのような学問か? 「リスク」を主題とすることの意義 ※講義の進め方、注意事項については、この回に説明を行う。 |
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第2回 | 「技術」の哲学(1) アリストテレス、カッシーラーの技術論、「呪術」と「技術」の共通点と差異について。「技術」をどのような営みとして特徴づけるか? |
第3回 | 「技術」の哲学(2) ハイデガー、三木清の技術論、ウェーバーの合理性論について論じる。現代哲学における技術的理性批判の系譜(フランクフルト学派)について概観するとともに、それらの今日的意味を考察する。 |
第4回 | 未来制御術としての「技術」~時間と合理性 目的-手段連関と「時間」との関わりについて考察する。「技術知」と要素還元主義は、どのような世界像を可能にするか? |
第5回 | 「リスク」の社会理論(1) チェルノブイリ事故とU.ベックの「リスク社会」 「3.11」のリスク論的インパクト。「天災」と「人災」の差異はどこから生まれるのか? |
第6回 | 「リスク」の社会理論(2) リスクと時間、N.ルーマンのリスク論~「社会システム理論」の哲学史的位置づけ。社会システム理論についての概観を与えるとともに、社会学的リスク概念の倫理学的含意について考察する。 |
第7回 | 「リスク」の社会理論(3) ルーマンの「リスクの社会学」(続き) 現代社会の時間構造の分析から、なぜ「リスク」が現代社会特有の問題となるのかを考察する。 |
第8回 | 事例検討(1) 責任概念の再検討~医療過誤訴訟、製造物責任法を手がかりに考える 「責任のコミュニケーション 」の拡大とリスク社会の変容。 |
第9回 | 事例検討(2) 過失責任と刑事罰~重大事故における個人免責は非道徳的か?「厳罰化」 と技術者の責任 ~ヒューマンエラーは裁けるか? 「専門家(プロフェッショナル)」の社会的責任の望ましいあり方を考える。 |
第10回 | 事例検討(3) 日本型「共同体主義的」倫理と内部告発者~「和の倫理」と「正義」。 道徳化された「自然」概念の再検討(おのずから と みずから) 事例検討から見えてくる、現代の「リスク社会」の諸相 |
第11回 | 事例検討(4) 生命の倫理と科学技術(クローン人間作成、脳科学、ゲノム編集技術、生殖医療など)。何が問題なのか? 何がどこまで許されるのか? 関連学会の研究ガイドラインなども参照しながら論点を紹介する。 |
第12回 | 技術のリスク・リスクと不安~「安心」と「安全」の狭間ででどのように振る舞うべきか? 「不安」を増幅する、リスク社会のコミュニケーションの特質について論じる。 |
第13回 | 「道徳」はリスクを回避できるか?~リスクの道徳・道徳のリスク。「道徳のインフレーション」と「モラル・パニック」のリスクを評価する。技術をめぐる、望ましい対話・コミュニケーションをどのように構築しうるのかについて論じる。 科学技術研究における不正問題についても触れる。 |
第14回 | まとめ 「日常性」と「リスク」の緊張関係から見えてくる「倫理」のあり方とは? 「技術」による「人間の条件」の改変は、どこまで許されるのか? |
第15回 | 到達度の確認 平常試験ならびに解説 |
その他
教科書 |
勢力尚雅(編著) 『 『科学技術の倫理学Ⅱ』 』 梓出版社 2015年 第初版
小テスト・テストは教科書の内容に沿った内容を出題します。また、毎回、教科書の指定さ
れた箇所の予習を求めます。授業中にも、教科書の内容について意見を述べてもらうことがありますから、必ず準備すること。
なお、本書には、同編著者による『科学技術の倫理学』が存在しますが、本講義で用いるのは、2015年初版の「Ⅱ」です。必ず、「Ⅱ」であることを確認してから購入して下さい。
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参考書 |
教科書以外の参考書については、授業中にリストを配布します。
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成績評価の方法 及び基準 |
理解度確認期間中に行う試験を60%、不定期に行う小テストを20%、課題図書に関するレポート(最終授業日に提出)を20%の割合で評価する。なお、小テストの提出回数が全回数の半数に満たない者は、出席不足と見なして本試験の受験を認めない(たとえ受験しても評価の対象としない)。授業内容(基本的な用語や概念、人名)の理解度の他、自分の考えを論理的に表現できているかという点も重視する。 なお、私語や携帯電話の使用など授業の進行を妨げる行為については、成績評価・単位認定の上で厳しく取り扱うから、特に注意して下さい。詳細は初回授業にて伝えます。 |
質問への対応 | 基本的に毎回授業後に質問時間を設けます。小テストに質問・意見を書いても構いません。 もちろん、授業中に発言することは大歓迎です(積極的な発言は、評価の対象とします)。 |
研究室又は 連絡先 |
初回授業において、担当者の授業専用メールアドレスを伝えます。 |
オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
「やっぱり倫理が大切だ!」と考えている人、「倫理学なんてお説教でしょ」と考えている 人のどちらも大歓迎。高校の「倫理」の授業が眠くて仕方なかった人は特に歓迎します。「倫理学ってこういうものだったのか!」と思わせるのが目標です。「当たり前のこと」を、あえて疑ってみるということの大切さを、みなさんと共に考える授業にしたいと思います |