2024年 大学院理工学研究科 シラバス - 物理学専攻
設置情報
科目名 | 量子物理学 | ||
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設置学科 | 物理学専攻 | 学年 | 1年 |
担当者 | 筒井 泉 | 履修期 | 後期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 月曜3 |
校舎 | 駿河台 | 時間割CD | M13A |
クラス |
概要
学修到達目標 | この授業では、量子力学の数学的な構造や概念的な基礎と量子的な物理現象との関連性を理解し、またこれらを通して得た自然界の新しい描像について学びます。近年の量子測定の一般化や量子もつれの物理の進展により、現代の量子力学には従来の標準的な枠組に加えて量子情報科学の発展に伴う新しい要素が加わっており、それらについての基礎的な知識を得ることを学修の到達目標としています。 |
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授業形態及び 授業方法 |
「対面授業」 板書またはスライドを用いた講義を行う。 |
準備学習(予習・ 復習等)の内容・ 受講のための 予備知識 |
予備知識としては学部で学ぶレベルの量子力学の初歩的知識を前提とする。量子力学の基礎に関する疑問や、古典物理と量子物理との違いが何に起因するかについて興味を持っていることが望ましい。 |
授業計画
第1回 | 量子力学の構造:量子化の数理 量子力学とは何か、その数学的構造と量子化の考え方を通して、古典論と量子論の違いが何に起因するかについて学ぶ。 | 事前学習:学部までに学んだ量子力学の基礎(構成規則と概念)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
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第2回 | 量子とトポロジー 物理系の大域的構造(トポロジー)が量子論においてどのような物理的効果をもたらすかについて、円周上の粒子やディラックの磁気単極子等を例に学ぶ。 | 事前学習:前回の授業と学部までに学んだ量子力学と電磁気学の基礎の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第3回 | 量子異常(アノマリー)とその物理 量子化に伴う対称性の破れ(量子異常・アノマリー)の原因とその物理的意味について、簡単な量子力学系を用いて学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ解析力学と量子力学(対称性と保存則の関係)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第4回 | アハロノフ・ボーム効果と幾何学的位相 量子化に伴って生じる物理現象の典型例であるアハロノフ・ボーム効果とベリーの幾何学的位相について、量子論の非局所性と物理量の意味の観点から学ぶ。 | 事前学習:学部までに学んだ電磁気学と量子力学(特にゲージ対称性)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第5回 | 粒子と波動の2重性:遅延選択実験 量子論の顕著な性質である「粒子と波動の2重性」の本質とは何か、遅延選択実験等の新たな取り組みを通して物理系の測定と系の情報獲得等の観点から学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第6回 | 量子ゼノン効果と無相互作用測定 量子論に特有な2つの顕著なパラドックス的現象を通して、量子測定と量子状態への影響及び情報獲得の関係について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学(測定と量子干渉)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第7回 | 新しい量子物理量:弱値と弱測定 新しい量子物理量である「弱値」の物理的意味と、その(物性物理や素粒子物理での)精密測定への応用について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学(測定と量子物理量)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第8回 | 不確定性関係と標準量子限界 21世紀になって見直され一般化された不確定性関係とは何か、また精密測定の原理的な限界を与える「標準量子限界」と不確定性関係との関係について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学(不確定性関係)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第9回 | 一般的な量子測定 近年の量子情報科学の発展の中で重要になっている量子力学における測定の一般的枠組について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学(測定と状態変化)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第10回 | EPRパラドックスとベル不等式 物理量の実在性や測定の影響の因果性に関するEPR(パラドックス)論文の内容、及びベル不等式とその実験的検証が示す自然界の描像について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学の概念的基礎(量子論の発展史を含む)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第11回 | 物理量の状況依存性とGHZ状態 物理量の測定状況依存性(コッヘン・スペッカー定理)と、これに関係するマーミンの魔方陣及びGHZ状態について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学(特に測定と物理観測量の関係)の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第12回 | 量子もつれと非局所相関 量子もつれとは何か、その数学的枠組を整理するとともに、それが実現する非局所相関の物理的意味について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業(特にベル不等式)と学部までに学んだ量子力学の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第13回 | 量子テレポーテーションと量子暗号 量子もつれによる非局所相関現象の応用として、量子テレポーテーションと量子暗号を採り上げ、これらの実現方法と物理的意味について学ぶ。 | 事前学習:前回までの授業(特に非局所相関)と学部までに学んだ量子力学の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第14回 | 量子計算の基礎 量子計算(コンピューティング)の基本原理とその実現によってどのようなことが可能になるかについて、ショアやグローバーの量子アルゴリズム等の例を通して学ぶとともに、今後の発展について考察する。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学や情報処理の復習。 事後学習:授業内容の復習を行う。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
第15回 | 波動関数の解釈:観測問題 量子力学の概念的根幹にある波動関数の解釈と観測問題に関する様々な立場(コペンハーゲン解釈、多世界解釈、隠れた変数解釈、測定者の情報解釈等)を知ることを通して、量子力学が自然界の基本原理の理解に何を示唆しているのかを考察する。 | 事前学習:前回までの授業と学部までに学んだ量子力学の復習。 事後学習:授業全体を総合的に振り返り、様々な量子力学の解釈の中で自分の採るべき立場について考察する。 | 事前学習:2時間 事後学習:2時間 |
その他
教科書 |
特定の教科書は使いません。
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参考資料コメント 及び 資料(技術論文等) |
アイシャム 著、佐藤文隆・森川雅博 共訳 『量子論 -その数学および構造の基礎-』 物理学叢書 93 吉岡書店 2003年
ジザン著、木村 元・筒井 泉 共訳 『量子の不可解な偶然:非局所性の本質と量子情報科学への応用』 共立出版 2022年
ペレス著、大場一郎・中里弘道・山中由也 共訳 『量子論の概念と手法 -先端研究へのアプローチ』 丸善出版 2001年
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成績評価の方法 及び基準 |
授業中の平常評価と課題レポートの評価を総合して成績を評価する。 |
質問への対応 | 各週の授業終了後に質問を受ける他、emailでの質問にも随時対応する。 |
研究室又は 連絡先 |
高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所 email: izumi.tsutsui@kek.jp |
オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
この授業では、量子力学の数学的な構造と概念的な基礎がもたらす(一見、不可解な)量子現象と、それらが示唆する自然界の新しい理解について学びます。現代量子力学の基礎や、量子情報科学を支える量子物理学に興味がある学生の受講を歓迎します。 |