2021年 理工学部 シラバス - 教養教育・外国語・保健体育・共通基礎
設置情報
科目名 |
倫理学
「罪と罰」から考える「倫理学」への誘い
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設置学科 | 一般教育 | 学年 | 1年 |
担当者 | 佐々木 慎吾 | 履修期 | 前期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 土曜5 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | P65A |
クラス | 1年生は、電気工学科・応用情報工学科・数学科のみ。2年生以上は、学科による履修制限はない。 |
概要
学修到達目標 | 唐突ですが、次のような問いを考えてみてください。 「子供を誘拐した犯人を、警察が逮捕した。しかし、犯人は頑として子供の隠し場所を白状しない。このまま放置すれば、被害者の生命に危険が及ぶ可能性がある。さてこの場合、警察が暴力的な手段に訴えてでも(つまり拷問によって)口を割らせることは正しいことか?」 これは、ドイツにおいて実際の裁判例となった事件(いわゆる「救助のための拷問」問題)ですが、皆さんはどう考えるでしょうか。直感的に、「当然、正しいに決まってるじゃん」と思う人、「やっぱ拷問拷問はまずいんじゃね」と思う人、さまざまではないでしょうか。 こうした言わば「ギリギリ」の決断を迫られる場面においては、例えば「正義」「人格の尊厳性」あるいは「自由」といった倫理学的諸概念が、現実との抜き差しならない緊張関係とともに際立ってきているのがわかります。平穏な日常性においては自明のものとして疑われていない前提を、あらためて可視化・問題化することが求められる、と言ってもよいでしょう。さて、この事例では、一体どのように対応することが「正しい」ことなのでしょうか? 折しも、裁判員制度の導入によって、犯罪や刑罰というものを自分自身の問題として引き受けることが、私たち一人一人に求められています。「人を裁く」ということが、どこか遠い世界の話ではなく、のっぴきならない現実として突きつけられているわけです。 こうした観点から、近年とりわけ再評価が進むカントやヘーゲルの刑罰論、社会システム理論(ルーマン)の刑法学への応用であるヤコブスの「敵対刑法」論などについて議論するとともに、場合に応じて、リスク社会論や街頭監視、死刑存廃論をめぐる諸問題など、今日的な動向についても触れ、また、実際の事例を多く取り上げながら、現代社会における「刑罰の倫理学(Penal Ehics)」の可能性を考えます。 現代的な問題について考える際にも、歴史を振り返り、先人の言葉に耳を傾けることが重要です。本講義が学生のみなさんに達成してほしい課題・到達目標は以下の通りです。 ①倫理学の基本的な概念についての思想史的な理解を得ること ②それらを現代的な課題と結びつけることを通じ、現状に対する批判的な思考力を獲得すること ③自分の考えを、説得的・論理的に表現するスキルを身につけること ※なお、冒頭の裁判例がどのような結果になったかの答えは、授業内で発表します。 |
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授業形態及び 授業方法 |
オンデマンド方式によるオンライン授業です。 |
履修条件 | 予備知識は特に必要ありません。意欲と知的好奇心のある学生を歓迎します。 なお、履修者は、下記の「成績評価基準」について了承したものとします。 |
授業計画
第1回 | 刑罰をめぐる今日の状況 「厳罰化」「広範囲化」「早期化」という潮流とその背景。 倫理学の方法論について。「刑罰・犯罪」が、なぜ倫理学の課題となるのか。倫理学は法学的アプローチとどのような点で異なるのか。 受講上の注意や評価についての詳細、他の教養教育科目との関連性なども、この回に伝達する。 事前学習(120分) シラバスを熟読し、上記「学修到達目標」冒頭に記した「問い」につて、自分なりの答えを考えておく。 事後学習(120分) 動画、ノートをもとに、授業内容を定着させる。授業内で示した参考資料を調べ、自分の考えをまとめておく。 ※「事後学習」については、以下毎回同様とする。 |
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第2回 | 古代の刑罰観(ギリシャ、日本)とその影響―『オイディプス王』『古事記』を題材として、応報と復讐、「ケガレ」の思想について考える。 事前学習(120分) 前回の動画をもとに、授業の前提となる歴史的知識について調べておく。 ※「事前学習」については、以下毎回同様とする。 |
第3回 | 共同体と犯罪 アウトロー(法‐外なる者)としての「他者」 排除と包摂の論理について。「私権の行使」としての刑罰から、「国家の刑罰」へ 刑罰の神権的正当化から、世俗的正当化への移行(法と宗教の分離)の歴史的意義について解説する。 |
第4回 | 啓蒙思想・社会契約説の刑罰論(グロティウス、ホッブズなど) 「国家による刑罰」の根拠について。「啓蒙」とは何か? 「人格の尊厳性」という新たな価値の基盤とその根拠について考える。 |
第5回 | カント(1) カント法論の現代的意義とは? 応報刑の哲学的根拠づけについて。 「定言命法」「人格と物の区別」「自由」など、カント道徳哲学を概観するとともに、その現代的な意義について解説する。 |
第6回 | カント(2) 第五回の続き |
第7回 | ヘーゲル(1) 市民社会と相互承認、法の「自己回復」としての刑罰 ヘーゲル哲学の思考法(弁証法)について概観するとともに、市民社会の哲学としての「法の哲学」における犯罪論・刑罰論について解説する。 |
第8回 | ヘーゲル(2) 第七回の続き |
第9回 | 現代における刑罰観・犯罪観の転換―応報から教育へ 「自由と安心のトレード・オフ」は、倫理学的にどこまで正当化しうるのか。 実例トピックの検討(街頭監視や非拘禁的処遇の倫理学的問題、前科前歴情報の共有など)を通じて考える。 |
第10回 | ヤコブスの「敵対刑法」論 社会システム理論から刑罰を捉える 人格の相互承認か、「敵」との闘争か? 応報刑論の現代的展開と、その倫理学的意義について解説する。 |
第11回 | 犯罪と脳神経科学─刑罰ではなく「治療」? 科学技術と倫理学の交差する場面で、「自由」「人格」といった概念を再考する。 「危険人物」に対する、脳神経科学的介入は許されるのか? |
第12回 | リスク社会における「他者」の変容 ルーマンのリスク論・規範論 抗事実的予期としての「法」。社会システム理論について概説するとともに、「予期」に基づく規範理論について解説する。 |
第13回 | 「信頼」の社会理論から倫理学へ 「他者を信頼すること」とそのリスク。12回の内容を踏まえ、システム理論における「信頼」の位置づけについて、和辻倫理学などにも言及して解説する。 |
第14回 | Penal Ethicsの射程と可能性―「人を裁くこと/罰すること」の倫理とは? 死刑存廃論への「規範的アプローチ」の必要性について。 |
第15回 | 全体のまとめ、および最終課題を実施。 |
その他
教科書 |
教科書は特に指定しません。
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参考書 |
参考書は、動画内で適宜紹介します。
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成績評価の方法 及び基準 |
①授業内容についての課題を提出して下さい。全12回分の課題を評価対象とします。期限までに提出されたものには一回につき2点を与え、内容に応じて最大で3点を加点します。(満点で5×12=60点) ②学期末に、最終課題を提出して下さい。期限までに提出されたものには10点を与え、内容に応じて最大で30点を加点します。(満点で40点) ①②を合わせて100点満点。 ※これらの課題はメールにて受理します。 ③授業動画を正規に視聴することなく課題を提出した者、提出物において他者の文章の無断引用を行った者は、いかなる理由であろうとも不合格とします。 |
質問への対応 | 担当者にメールで質問して下さい。課題提出の際、併記してもかまいません。内容に応じて、個別回答または次回授業内にて回答します。 ※履修条件についての問い合わせなど、重要事項については、必ずメールの件名欄に「至急」「重要」などと明記して下さい。優先対応します。記載無き場合、対応が遅れる可能性があります。 |
研究室又は 連絡先 |
sasaki.shingo20@nihon-u.ac.jp |
オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
「倫理学」というものに皆さんがいだくイメージはさまざまでしょう。ひょっとしたら、「退屈なお説教」「現実離れした空論」という先入観を持つ人もいるかもしれません。また、数百年前の人間が著した書物を読むことが、現代においていったい何の役に立つのか、疑わしく思う人もあるでしょう。そのような人はむしろ大歓迎です。大切なのは、人間や社会に対する貪欲な好奇心と、「当たり前」のことをあえて疑ってみる態度です。意欲ある皆さんの参加を大いに期待しています。 |