2021年 理工学部 シラバス - 教養教育・外国語・保健体育・共通基礎
設置情報
科目名 |
技術者倫理
技術と「リスク」の倫理学~科学技術が「できること」と「やっていいこと」の線引き問題~
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設置学科 | 一般教育 | 学年 | 1年 |
担当者 | 佐々木 慎吾 | 履修期 | 後期 |
単位 | 2 | 曜日時限 | 土曜5 |
校舎 | 船橋 | 時間割CD | P65S |
クラス | 1年生は、電気工学科・応用情報工学科・数学科のみ。2年生以上は、学科による履修制限はない。 |
概要
学修到達目標 | ・知性主義化したリスク社会の特徴,要素還元主義的な科学や日本の文化や組織,そして人間の認知システムの強みと弱みなどを理解・検討する力を身につける。 ・科学知や科学技術の開発・運営をめぐるコミュニケーションと倫理の適切なかたちを探求し続ける力を身につける。 ・これまでの様々な失敗事例や思考実験を用いながら科学技術者として自分が身につけるべき対話力,フォロワーとしての市民が身につけるべき科学技術と情報をめぐるリテラシーと思考力を伸ばす。 |
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授業形態及び 授業方法 |
オンデマンド方式によるオンライン講義です。 |
履修条件 | 予備知識は特に必要ありません。意欲ある参加と、社会・人間に対する旺盛な好奇心を期待します。なお、下記「成績評価基準」を熟読し、評価の条件を了承したうえで受講してください。 |
授業計画
第1回 | 「技術者倫理」への招待 倫理学とはどのような学問か? 「リスク」を主題とすることの意義 ※講義の進め方、注意事項・他の教養教育科目との関連については、この回に説明を行う。 事前学習(120分) シラバスを熟読するとともに、上記「学修到達目標」欄に記した「ゲノム編集による双子誕生」について新聞記事等により事実関係を調べておく。 事後学習(120分) ノート、プリントをもとに授業内容を定着させる。指示された参考文献・資料について調べ、自分の考えをまとめておく。 ※「事後学習」について、以下毎回同様。 |
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第2回 | 「技術」の哲学(1) アリストテレス、カッシーラーの技術論、「呪術」と「技術」の共通点と差異について。「技術」をどのような営みとして特徴づけるか? 事前学習(120分) 教科書の指定された箇所を熟読し、疑問点や不明な点を整理しておく。授業の前提となる事実関係について、事前指示にもとづき、新聞記事等で調べておく。 ※「事前学習」について、以下毎回同様。 |
第3回 | 「技術」の哲学(3) 近代合理主義と「科学技術」の誕生 「啓蒙」というプロジェクトは何を信じ、何を目指したのか? 一体化した営みとしての「科学技術」は、いつどこで、どのように誕生したのか? |
第4回 | 「技術」の哲学(3) ハイデガー、三木清の技術論、ウェーバーの合理性論について論じる。現代哲学における技術的理性批判の系譜(フランクフルト学派)について概観するとともに、それらの今日的意味を考察する。 形式合理性の陥穽と「啓蒙」の理念の限界。 |
第5回 | 「リスク」の社会理論(1) チェルノブイリ事故とU.ベックの「リスク社会」 「3.11」のリスク論的インパクト。「天災」と「人災」の差異はどこから生まれるのか? |
第6回 | 「リスク」の社会理論(2) リスクと時間、N.ルーマンのリスク論~「社会システム理論」の哲学史的位置づけ。社会システム理論についての概観を与えるとともに、社会学的リスク概念の倫理学的含意について考察する。 |
第7回 | 「リスク」の社会理論(3) ルーマンの「リスクの社会学」(続き) 現代社会の時間構造の分析から、なぜ「リスク」が現代社会特有の問題となるのかを考察する。 |
第8回 | 事例検討(1) 責任概念の再検討~具体的事例を手がかりに考える 「責任のコミュニケーション 」の拡大とリスク社会の変容。 「責任」とはいったい何か、どのようにすれば「責任」を果たしたことになるのか? 古典的責任概念の限界と、「世代間倫理」をめぐる諸問題について。 |
第9回 | 事例検討(2) 過失責任と刑事罰~重大事故における個人免責は非道徳的か?「厳罰化」 と技術者の責任 、ヒューマンエラーは裁けるか? 「専門家(プロフェッショナル)」の社会的責任の望ましいあり方を考える。 |
第10回 | 事例検討(3) 「自然」のリスク化をめぐって 「ラクイラ地震裁判」の事例を手がかりに考える。知性主義化された社会における「自然」の変容と、その倫理学的帰結について論じる。 |
第11回 | 事例検討(4) 生命の倫理と科学技術(クローン人間作成、脳科学、ゲノム編集技術、生殖医療、出生前診断など)。何が問題なのか? 何がどこまで許されるのか? 関連学会の研究ガイドライン、各国の法規制の事例なども参照しながら論点を紹介する。 |
第12回 | 事例検討のまとめと論点整理 |
第13回 | 「道徳」はリスクを回避できるか?~リスクの道徳・道徳のリスク。「道徳のインフレーション」と「モラル・パニック」のリスクを評価する。技術をめぐる、望ましい対話・コミュニケーションをどのように構築しうるのかについて論じる。 |
第14回 | 科学技術と政治の望ましい関係とは? 社会システム理論の観点から議論する。 話題としては、「ルイセンコ事件」、科学研究不正問題などを扱う。 |
第15回 | まとめ 「日常性」と「リスク」の緊張関係から見えてくる「倫理」のあり方とは? 技術による「人間の条件」の改変はどこまで許されるのか? 全体の議論を総括し、今後の展望を与える。 |
その他
教科書 |
勢力尚雅(編著) 『 科学技術の倫理学Ⅱ』 梓出版社 2015年 第初版
課題・レポートは授業および教科書の内容に沿った内容を出題します。また、毎回、教科書の指定された箇所の予習を求めます。必ず準備すること。 ※初回、第二回の授業に限り、準備していなくても可とする。
なお、本書には、同編著者による『科学技術の倫理学』が存在しますが、本講義で用いるのは、「Ⅱ」です。必ず、「Ⅱ」であることを確認してから購入して下さい。
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参考書 |
教科書以外の参考書については、授業中に適宜紹介します。
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成績評価の方法 及び基準 |
①授業内容についての課題を提出してください。12回分の課題を評価対象とします。一回につき2点を与え、内容に応じて最大3点を加算します。 満点で5×12=60点。 ②期末レポートを提出してください。指定された形式・締め切りを守って提出されたものには10点を与え、内容に応じて最大30点を加算します。満点で10+30=40点。 合計100点満点で評価します。 ③授業動画を正規に視聴することなく課題を提出した者、提出物において他者の文章の無断引用を行った者は、いかなる理由があろうとも不合格とします。 |
質問への対応 | 担当者にメールで質問するか、課題に併記するかしてください。内容に応じて、個別回答または次回授業にて回答します。 ※履修についての問い合わせなど重要事項については、メールの件名欄に「至急」「重要」などと明記してください。優先的に処理します。記載がない場合、対応が遅れる可能性があります。 |
研究室又は 連絡先 |
sasaki.shingo20@nihon-u.ac.jp |
オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
最近の科学技術の発展スピードは目覚ましく、一昔前はSFの世界の出来事だと思われていたさまざまな技術が現実のものとなりつつあります。それに伴って、クリアすべき倫理学的課題も増大しているわけですが、議論が現実に追いついていないという面が否定できません。 例えば、「クローン人間製作」や「ゲノム編集技術による人間の質的改良」の問題を考えてみます。これらの技術は、もはや実用的に可能な段階に達しつつあり、その意味ではわれわれにとって「できること」の領域に入ってきています。他方で、そのようにして誕生した存在が、果たして「私たち」と同じ「人間」であり、固有の尊厳を有する「人格」たりうるのか、私たちは彼らと共存できるのか、といった疑問や不安が拭えないのも事実です(身近なことろでは『機動戦士ガンダム』シリーズの「強化人間」や、『とある~』シリーズの「妹達」を思い浮かべればピンとくる人も多いでしょう。先年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの『私を離さないで』が扱ったのも、も同様のテーマでした)。 現実に目を向けると、中国において「ゲノム編集技術」を用いてHIVへの先天的耐性を持った双子を誕生させたとするニュースが世界中に衝撃を与え、さまざまな議論を呼び起こしました。このできごとのインパクトは大きく、わが国においてもゲノム編集技術のヒトへの応用について法規制が進みつつあります。私たちが科学技術によって「できること」は拡大する一方ですが、それが「やっていいこと」と必ずしもイコールではないということを認識する必要があります。 こうした状況において、望ましい「技術者倫理」の在り方を考える切り口となるのが「リスク」の概念です。技術が合理性によって未来とかかわろうとするとき、そこには必ず「リスク」が生じます。この出発点から、私たちが未来に対して負っている責任とは何か、を考え、そして、技術が「できること」と「やっていいこと(あるいは、してはならないこと)」の線引きについて、いかにして広範な社会的合意を形成しうるか、その前提条件について考えることが、この授業の目標です。 技術やリスクをめぐる哲学・倫理学・社会学の基礎的知識を紹介するかたわら、実際の事例を豊富に題材に採り、より「良い(善い)」科学技術の在り方を、ともに考える場を提供します。 「やっぱり倫理が大切だ!」と考えている人、「倫理学なんてお説教でしょ」と考えている 人のどちらも大歓迎。高校の「倫理」の授業がほぼ睡眠時間だった人は特に歓迎します。「倫理学ってこういうものだったのか!」と思わせるのが目標です。「当たり前のこと」を、あえて疑ってみるということの大切さを、みなさんと共に考える授業にしたいと思います |