2021年 大学院理工学研究科 シラバス - 土木工学専攻
設置情報
科目名 |
土質力学演習Ⅰ
地盤の不安定問題における総合評価能力の習得
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設置学科 | 土木工学専攻 | 学年 | 1年 |
担当者 | 岡田 仁 | 履修期 | 後期 |
単位 | 1 | 曜日時限 | 水曜2 |
校舎 | 駿河台 | 時間割CD | A32C |
クラス | |||
その他 | 実務経験のある教員による授業科目 |
概要
学修到達目標 | 地盤の不安定問題(地震・豪雨に伴う斜面崩壊、工事に伴う地盤の変状や掘削面の崩壊等)を扱う上で、土質力学の公式や解析技術を用いて安全性を検討するだけでは、現象を正しく解明することはできない。地盤の生い立ちの違いによって地形・地質が異なり、物理的・力学的性状が異なることを頭に入れて、地盤を総合的に評価して、判断することが重要である。 土木工学は経験工学である。地盤トラブルを回避するためには、過去にどのようなトラブルがあったかを知ることが大切である。 本授業では、東京周辺の地盤の様々なトラブル事象を例にとり、実践的な地盤の総合判断能力を高める学習をする。 構造物の建設および維持管理をおこなう上で、地盤に関わる総合評価能力が身に付き、第四期の地盤を工学的に評価することができる。 |
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授業形態及び 授業方法 |
「対面授業」 山岳トンネルや都市トンネル等、第一線の建設工事に長年従事し、東京および近傍の地盤に直接触れてきた講師の経験をもとに、地盤トラブル上注意すべき着目点や対処法を講義する。 講義は、スライドによる説明を中心にディスカッションを基本として進める。適宜、課題演習を交えて、地盤の不安定問題の予測能力および課題解決能力を習得する。 授業計画は、講義毎の理解度により内容を変化させるので確定的ではないが、代表的な一例として下記に示す。 |
準備学習(予習・ 復習等)の内容・ 受講のための 予備知識 |
土質力学および地盤工学の基礎知識は最低限必要。学部のときの教科書、ノート等の復習をしておくこと 出された課題は確実に実施すること。 正答でなくても構わないので、自分の考えを整理し、レポートにまとめて提出、発表できるようにしておく それによって論文作成および発表能力を身につける |
授業計画
第1回 | 地盤工学には多くの不確定要素があることおよび、地盤の総合評価の必要性を説明する (設計入力値の設定誤差、解析の誤差、土質調査・試験の不確実さを踏まえ、実現象と検討モデルの差を構造物の計画・設計にどのように反映させるか等) 第1回はガイダンスを中心に、地震・豪雨による斜面崩壊等の事例紹介を基に、地盤を総合的に評価しないと正しい答えが得られないことを理解する |
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第2回 | 東京周辺の地盤概要を説明し、洪積層、沖積層の工学的違いを理解する (山の手台地と下町低地の地形・地質の違い、東京の地盤と日本の地盤、低地と台地の生い立ち、東京都心部には何故坂が多いか等) 地形・地質の違いにより地盤の工学的性状が異なること、なぜそうなったか、工学的にどのように判断すべきかを理解する |
第3回 | 地形、地質の違いが何故生じるか。施工法をどのように選定すべきか (東京駅周辺・駿河台周辺の地盤を例にとり、地盤の違いと土留めの選定について学習する) 山の手台地の地形、地質、地層構成毎に工事をおこなう上でどのようなことに注意すべきかについて講義する 台地部と低地部(下町低地、河谷低地)の生い立ちの違い |
第4回 | 洪積層と沖積層の違い(地盤の生い立ちによる工学的違い) 山の手台地の地層構成 |
第5回 | 山の手台地の地盤の特徴 関東ローム層と土質特性、河谷低地の地盤トラブル(工事上の注意点および工事による地盤沈下:河谷低地の地盤沈下の例を参考に原因を検討) |
第6回 | 河谷低地部に多く分布する腐植土層の例および土質特性 台地部での地盤トラブル(斜面、急崖地での注意点、台地上の窪地での湛水) |
第7回 | 台地上での液状化、東京および千葉の東京湾岸沿いの砂州・砂丘 |
第8回 | 下町低地の地形、地質、生い立ち |
第9回 | 沖積層の地層構成 関東平野の生い立ちと工事上の注意点 広域地盤沈下、南関東ガス田、関東造盆地運動 |
第10回 | 地盤の総合評価応用例(1) 地形、地質、地下水の流れから見た江戸の開発 (何故、江戸に城を築いたか) 城の防御、流通の便(船運、陸路)、住居の確保、飲水、食料の確保、城下町の発展 |
第11回 | 地盤の総合評価応用例(2) 大正関東地震による地盤災害 震源域近傍での大規模斜面崩落 |
第12回 | 地盤の総合評価応用例(3) リニア中央新幹線 南アルプス貫通時の課題 土被りの大きいトンネル掘削(地山応力度から見たトンネルの安定、NATM、在来工法) フォッサマグナ(糸魚川~静岡構造線、中央構造線他)の破砕帯通過 畑薙山断層通過時の出水 |
第13回 | 地盤の総合評価応用例(4) 土被りの大きいトンネルおよび破砕帯掘削の対応事例紹介 中央自動車高速道 南アルプスルートの変更(南アルプスを迂回した例) 上越線 清水トンネル、大清水トンネル(トンネル掘削技術の進歩の例) 東海道線 丹那トンネルと丹那断層(異常出水、トンネル崩落、断層地震による被害) リニア中央新幹線品川工区および東京外環道路大深度法適用事例紹介 最終課題演習の提示 |
第14回 | 地盤の総合評価応用例(5) シールド工事による地盤変位と近接施工情報化施工について シールド工事による地盤沈下のメカニズム 地盤変状解析の問題点について(解析をおこなう上での不確定要素について) 近接施工情報化施工の必要性と実施例の紹介(ICTとAIの導入) |
第15回 | 最終課題演習の発表およびディスカッション |
その他
教科書 |
指定しない。授業の都度プリントを配布する。
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参考資料コメント 及び 資料(技術論文等) |
『東京の自然史』 貝塚爽平 講談社学術文庫 2011年 第1版
東京周辺の地盤のバイブルと言っても良い本。
土木技術者にとって社会に出てからも役に立つ本です。
ぜひ熟読してください。
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成績評価の方法 及び基準 |
授業におけるディスカッションへの対応およびレポートの内容評価 新型コロナウィルスの影響に伴い変更の可能性がある。変更の場合は授業時に伝達する。 |
質問への対応 | 授業でその都度、または授業後にメールにて対応する。 |
研究室又は 連絡先 |
東京都千代田区神田駿河台1-8-14 研究室 :駿河台校舎 タワー・スコラ(新棟) 11階 S1109室 E-mail:okada.hitoshi20@nihon-u.ac.jp |
オフィスアワー | |
学生への メッセージ |
東京は江戸時代に、さびれた寒村から人口100万人の大都市に発展した。それが現代の東京の大発展へとつながっている。江戸の開発は、地形、地質をうまく利用して大規模土木工事が行われ、築城、造成、洪水対策等の都市整備、道路・水路等の交通網整備、上水道整備が行われた。 土質力学の理論も確立されておらず、高度な数値計算も行われていない時代にどうしてこのような世界有数の大都市が建設できたのか。これは、江戸の地形、地質を熟知し、経験豊富な当時の土木技術者が地盤を総合的に評価したからである。このことは、現在の土木技術者である私たちも見習わなくてはならない。 この授業を通じて、地盤を総合的に評価する能力を身に付け、現状の地盤工学が抱える様々な課題を理解し、それを解決する楽しさと重要性を感じ取って欲しい。 授業でわからないことはその場で質問して内容を理解し、論文・雑誌等でさらに理解度を深める習慣を身につけて欲しい。 一人でも多くのみなさんにこの授業を受けて欲しい。地盤工学だけでなく、都市計画および施工計画を目指す人にも役に立つ内容である。 |